ラグジュアリーブランドといえば、ヨーロッパを代表するブランドや銀座に軒並み立ち並ぶ高級ブティックなどがあります。

ラグジュアリーという言葉を聞いて皆さんは何を思い浮かべますか?

 

■ラグジュアリーの定義

HECではラグジュアリーの定義は「心の豊かさ」と定義しています。ラグジュアリーとは決して高価なものや高級品というわけではないのです。生活必需品ではなく、なくても生きていけるものです。
その存在がそれぞれの心の中で、言葉で表現できないワクワクするもの、自分を高めてくれるもの、高揚感、そこに存在しているのはまさに「エモーショナル」です。

人の「心」に寄り添いどのように心を動かすのかということが非常に重要です。

特に物質的に豊かな今の時代、このような「心の豊かさ」を人々は求めています。

今年オープンし銀座の地価の上昇にも影響を与えている「GSIX」や、数々のおしゃれな店舗展開をしている蔦屋書店も「モノ」をただ提供している場所ではありません。「ライフスタイル」つまり心の豊かさを提案されているのです。そこに行けば、なにか自分の生活を豊かにしてくれるもの、今よりも心の充実を得られるモノがあると思い人は足を運びます。「モノ」ではない「価値」の提供です。

 

例えばJewelryであれば、人生の節目、結婚の記念、自分を奮い立たせるため、ご褒美、それを持っているだけでワンランク上の自分になれる気がするという期待、非日常感。何らかしらの「エモーショナル」な状況が存在しています。

ヨーロッパで生まれたブランドは元々一部の富裕層のみを対象にしており、一般の庶民が買いに行くというものではありませんでした。バブル期の日本人観光客がヨーロッパに行き、カジュアルな格好でブティックを訪れ買い漁るという現象が一時期ヨーロッパでは異様な光景と映ったように「ラグジュアリーブランド」自体の在り方も国それぞれで違います。

日本ではヨーロッパと違い、パリュールという3点セットで宝石を身に着け、デコルテを出したソワレで正装して出掛けるという「場所」が極めて少ないです。
ですので、ラグジュアリーブランド業界はTOP顧客様にそのような場所をおもてなしというスタイルで提供しています。
しかし、日本ではそのような場所を知っている人はほんの僅かです。

 

日本には目の肥えた質の高い消費者が沢山います。実はここ最近本当に良い高いものというのが日本でも売れるようになってきています。しかし一番厚みを持っているのはちょっと手を伸ばせば届く商品への需要です。

ちょっと手を伸ばせば届く「ラグジュアリー」が今日本ではとても需要があるのです。

 

 

■ブランド哲学とは

ブランド業界が長年大切にしているものがあります。
それは「ブランド哲学」です。ブランドらしさとは何なのか。実はこの「ブランドらしさ」は明文化されていません。社員はこの「ブランドらしさ」を追求しなければなりません。長年の歴史の重み、ブランドが守ってきたもの、それは世界観だったりイメージだったり形に出来ないものです。
どこの企業も経営理念や企業指標のようなものは存在していますがブランド業界においてはこれらは特に文書化されているわけでもなく「感じる」ものなのです。

 

私自身もテイファニーに入社し本当の意味でのブランドらしさを感じたのは、実はニューヨークに行きNY本社にあるアーカイブ、NY本店で長年働き退職されたティファニーの生き辞書と呼ばれるマダムとの会話、そしてデッサン画や大粒の宝石から一点もののJewelryが作られる工程を工房で目の当たりにし初めて感じることが出来ました。

まるで夢のような世界、これが私の感じた素晴らしい世界観でした。

このように体感して継承してく「ブランドらしさ」は常に関わる人間が大切に体感し伝えていくものです。
そしてその本質は変えることなく、時代にマッチした形で合わせていくのです。

 

ラグジュアリーブランドは京都という街ととても良く似ています。
ちなみに私の大学の卒論は京都の経済(伝統産業)についてでした。(経済学部卒業です)

守るべきもの、守らないといけないもの、継承すること、本質は変えることはありません。変えてはいけません。
しかし、時代にマッチさせるということも必要なのです。
ブランドの価値や哲学を大切にしながらどのように発展させていくのかという「イノベーション」という言葉ではない変化が必要なのです。

「らしさ」というのはなかなかすぐには理解は出来ません。その本質をやはり自分なりに考え、答えを出していくのです。

 

よく「自分らしさがわからない」という声を聞きますが、「らしさ」というのは一瞬にして理解したり分かるものではありません。時間をかけて感じていくものです。自分のことは実は自分が一番分からないものです。

 

人と関わることで「自分らしさ」は発見していけば良いのです。そして自分ひとりで築き上げていくものではなく周りとの関わりの中で見つけていくものなのです。

人生というのはこの「らしさ」を追求することなのかもしれません。そして探そうとすることがない限り分からないものです。

 

 

■CHANELにみる本質を守るということ

 

実はCHANELは創業以来、一度も株式を公開せず巨大資本グループにも属さず独自の経営を守っています。今やラグジュアリーブランドはLVMH(モエヘネシー・ルイヴィトン)のように巨大資本グループの一員であったり(LVMHには、Louis Vuitton、Dior、セリーヌ、エミリオ・プッチ、FENDI、LOEWE、BVLGARI、De Beersといった名の通ったブランドが傘下グループです。BVLGARIがLVMHになった時は個人的にびっくりしました。)

上場するということは、複数の株主が存在するために株主の圧力が強くなり経営に口出しされ、自由度が低くなることもあるのです。

CHANELの強みは、創業者のココ・シャネル、そして現在のデザイナーのカール・ラガーフェルドの才能だけででなく非上場ということもブランドの地位を守り続ける大きな強みになっています。株主に束縛されずブランド価値、地位を守っているのです。

本質を守るということは、信頼を守るということです。もし一度低価格の商品を量産させられたり、短期的な企業の成長や利益のみを追求させられたら二度とそのブランドの地位は取り戻すことは出来ないのです。

 

個人においても同じことが言えます。自分自身の本質を守るということは自分の哲学を守り抜くことです。皆さんには哲学があるでしょうか?または自分の美学です。

多様化、柔軟性もちろん必要ですが、自分の本質を守るためには「やってはいけないこと」があります。そしてこれらがあるものに人は惹かれます。

人生は彫刻です。余分なものを削ぎ落とし、自分らしさを構築していきましょう。